ピコピコガッコン日記 ~番外編~ 「ドクターペッパー」

この記事は、クレボに通う利用者が、懐かしいドリンクとそれにまつわる思い出を綴る備忘録です。

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フツー

神様、どうか、私をフツーにしてください。

濃い緑色のノートの端っこに、こんな落書きが残されていました。
これは、小学生だった私の祈りです。

この祈りは、その後10年以上続き、自閉症(ASD)と診断されたことで少しずつ落ち着いていきました。

それでもいまだに、眠れないまま迎えた朝の霧雨を見ていると、祈らずにはいられないことがあります。

きっと、子どもから大人になるまでの長い時間、あまりにもずっと祈っていたので、脳の回路がそこだけ太くなってしまって、時折、何かの拍子にその回路に電気が走るのでしょう。

私は自分をフツーだと思っているけれど、担任の先生の溜息、茶化すようなオウム返し、どうしても噛んでしまう親指の爪。

フツーなんてないと説明されても、どうやらフツーはあるようなのです。

ドクターペッパー

レストランで、子どもが選ぶ飲み物といえば、瓶入りのオレンジジュースかコーラが定番でした。

コーラといえばコカ・コーラ。
そんな私に、友人がドクターペッパーの存在を教えてくれたときには、本当に驚きました。

ドクターペッパーは、アメリカで最も古い炭酸飲料のひとつで、1885年にテキサス州で誕生しました。

癖のある味わいが特徴で、コーラとは一線を画す個性があります。独自のスパイス調合による複雑な風味は、杏仁豆腐に似ているとも言われています。

スパイスの効いた炭酸飲料といえばコーラしか知らなかった私は、ドクターペッパーを初めて飲んだとき、コーラの偽物だと思い込んでいました。缶のデザインや色合いがコーラと似ていたことも、理由のひとつです。

ドクターペッパーの味わいを体験すると、それまで飲んできた炭酸飲料がとてもシンプルな味に思えます。子どもの味覚には少し複雑すぎるきらいがあるかもしれません。

友人が興奮気味に『これは宇宙人の飲み物だ!』と言っていたのを、今でもはっきり覚えています。

エイリアン

母はよく、お酒を飲むと『あなたは宇宙人と地球人のハーフなのよ』と私に言って聞かせていました。

思い返すと、それはあながち間違いではなかったのかもしれません。なにしろ、母自身が、まるで宇宙船に乗ってやってきた宇宙人のようだったからです。

私たちは親子でありながら、日常会話さえ難しく、いつもどこか別々の星にいるような感覚がありました。

私は、高校を卒業して、母と離れて暮らすようになってからというもの、母のような「宇宙人」を探し続けていました。

人生の中で、たまに出会う彼らと一緒にドクターペッパーを飲めば、私の中の宇宙人が目を覚まし、懐かしい故郷に帰ったような気持ちになることができました。

ときには一番星のような彼らに惹かれ、その引力にあらがえず、「私も宇宙へ連れて帰ってほしい」と願ったこともあります。

しかし、私の半分は地球人でもあるので、宇宙と地球のグレーゾーンで引き裂かれながら、ついぞ宇宙へ飛び出すことはできませんでした。

そして、一番星のような彼らは、いつもあっという間に流れ星になって、宇宙へ消えていきました。

プラネットアース

取り残された私は、宇宙と地球の狭間で彷徨いながら、あまりに寂しく、もう宇宙人を探すのはやめることにしました。それでも、時折、郷愁に浸りたい朝はやってきます。

そんな朝は、地球のコンビニや自動販売機で、ドクターペッパーを購入します。

ドクターペッパーは、宇宙人の飲み物。

私の中の宇宙人が求める、故郷の味です。


おわり

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