アイして~るアイスクリ~ム:アイスボックス編
沈まぬ太陽
レーザービームのような西日がカーテンの隙間からリビングに差し込んでいました。カーテンをしめて時計を見ると、すでに夕方5時を過ぎています。
その日は朝から強烈な日差しが照りつけ、最高気温は35度を超えていました。
日が落ちてから商店街へ行くつもりでしたが、これではいつまでたっても外に出られそうにありません。真夏の西日は、暗くて涼しい環境を好む私を、いつも憂鬱にさせます。
外はまだ昼間のように明るいけれど、時間はすでに夕方です。
近くの公園からは、日が沈むのを待ちきれずに花火の準備をする子どもたちの声が聞こえてきました。
気は進みませんが、あきらめて玄関へ向かいます。予報では夜から雨が降るそうで、濡れてもいいように、ビーチサンダルを履きました。
こんな日は、クリーム系のアイスよりも、さっぱりとした氷系のアイスが食べたくなります。
アイスハック
スーパー、八百屋、パン屋、ドラッグストアの順番に買い物をすませ、最後にコンビニへ向かいます。
ある計画があったのです。
その日は土曜日で、翌日もお休み。
少しだけ羽目を外してもいい日でした。
SNSで見かけて気になっていた、お酒とアイスを組み合わせた『アイスハック』を試す絶好のチャンスです。
ここでいう『アイスハック』とは、アイスを使った裏ワザのことです。例えば、メロンソーダにバニラアイスを入れてクリームソーダにするのが、その代表例です。
お酒を使った『アイスハック』には、いくつかメジャーなレシピがあり、以下は事前に用意していたアイディアです。
- エッセルスーパーカップ(明治):ブランデーやラム酒をかける
- アイスの実(Glico):グラスに入れてシャンパンを注ぐ
- ガリガリ君(赤城乳業):ジョッキに入れてチューハイを注ぐ
それどころじゃない
しかし、どのアイディアにも食器が必要です。一度家に戻らなければ試すことはできません。
そのことに気がついた私は、商店街の真ん中で思わず真顔になってしまいました。一刻も早く、体を冷やしたかったのです。
上品とは言えませんが、帰り道に公園を歩きながら食べられるような、手軽なアイデアが必要でした。
アイスボックス
コンビニのアイスコーナーを見回すと、どれも美味しそうで迷ってしまいます。
しかし、こんな時こそ、自分の頭でよく考えて判断しなければなりません。誰かに決めてもらったとしても、後悔したり、その人を恨めしく思ったりするだけです。
アイスコーナーの前で立ち尽くした私は、なぜだか過去の失敗や人生にまで思いを巡らせると、最終的に「初心に戻り、氷菓を選ぼう」と決意しました。
氷菓に限定すると、アイスコーナーの半分が選択肢から外れます。残った商品の中に『アイスボックス』を見つけました。
コップ型のパッケージにはフタが付いていて、大きく『ドリンクを入れても!』と書かれています。
アイスボックスといえば、暑い日の水分補給としても多くの人に愛されているアイスです。
ここ数年の猛暑で、アイスボックスに好きなドリンクを入れて楽しむのが流行っているという噂を耳にしたこともありました。
公式が推奨しているレシピなら、失敗する心配もありません。
夏のゲリラ豪雨
帰り道にある大きな公園のベンチでひと休みすることにしました。
歩きながら味わうつもりでしたが、思いのほか買った荷物が重く、公園のベンチに腰かけて休むことにしたのです。
コンビニで購入したアイスボックスとハイボールを取り出し、いそいそと準備を始めます。
アイスボックスのフタを開けると、ぎっしりとレモン色の氷が詰まっていますが、ちゃんと隙間があるので、ハイボールを注いでも溢れる心配はなさそうです。
アイスボックス自体がスポーツドリンクのような味なので、無糖ハイボールとの相性は抜群です。
缶一本分は入りそうにないため、氷がたっぷり入ったグラスのように、チビチビと入れては氷と一緒に味わいます。
味は決して薄くなく、しっかりとした甘さがあり、凍らせたスポーツドリンクを彷彿とさせます。カップにお酒を注いで飲む、このひと手間も楽しいです。
気がつけばすっかり飲み干していました。上機嫌で買い物袋を手に立ち上がります。
すると、途端に空が曇り、あっという間に雨が降り始めました。雷が光り音を立てる空を見上げていると、風に乗った雨が顔を濡らします。
予報を上回る激しい雨が降り、ビニール傘とビーチサンダルでは太刀打ちできません。帰りの歩道は冠水し、家に着くころには体が冷え切っていました。
びしょ濡れのままお風呂場に向かいながら、「涼しくなるまでに、あと何回、アイスボックスを食べるかしら」と、夏の終わりにしみじみとしました。
夏のおわり